役員報酬はいくらが正解?“最適ライン”を税理士が解説

会社を設立した後、多くの社長が悩むのが、

「自分の役員報酬をいくらにすればいいのか」

という問題です。

役員報酬は、単に「生活費としていくら必要か」だけで決めるものではありません。

高くしすぎれば、社長個人の所得税・住民税・社会保険料が重くなります。
一方で、低くしすぎれば会社に利益が残り、法人税等の負担が増えます。

つまり役員報酬は、

会社に利益を残すか、社長個人に所得を移すか

というバランスの問題です。

そして、このバランスを間違えると、会社と個人を合わせた手取りが大きく変わります。


役員報酬に「万人共通の正解」はない

結論から言うと、役員報酬に絶対的な正解はありません。

なぜなら、最適な金額は次の要素等で変わるからです。

  • 会社の利益
  • 社長の生活費
  • 家族構成
  • 社会保険の負担
  • 所得税・住民税の税率
  • 将来の融資予定
  • 会社に資金を残したいか
  • 退職金をどう設計するか

たとえば、同じ年間利益1,000万円の会社でも、社長が独身なのか、扶養家族がいるのか、住宅ローンがあるのか、今後借入を予定しているのかで、適切な役員報酬は変わります。

そのため、ネット上でよく見る、

「役員報酬は月〇万円が得」
「利益が〇万円なら報酬は〇万円」

という単純な話は、あまり信用しすぎない方がよいです。


役員報酬を決めるときに見るべき3つの税金・負担

役員報酬を決めるときは、少なくとも次の3つを同時に見ます。

  1. 法人税等
  2. 所得税・住民税
  3. 社会保険料

ここを別々に考えると、判断を誤ります。

たとえば、役員報酬を増やすと、会社の利益は減ります。
そのため、会社側の法人税等は下がります。

しかしその一方で、社長個人の給与所得が増えるため、所得税・住民税・社会保険料は増えます。

つまり、役員報酬の判断では、

法人税が減る効果だけでなく、個人側の税金・社会保険料の増加が大きいか小さいか

を見なければなりません。

ここが一番大事です。


「法人税を減らすために役員報酬を上げる」は半分正解、半分危険

よくある考え方として、

「会社に利益を残すと法人税がかかるから、役員報酬を増やして利益を減らそう」

というものがあります。

これは、考え方としては間違いではありません。

役員報酬は、要件を満たせば会社の経費になります。
ただし、役員給与は税務上のルールが厳しく、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与などに該当しないものは、原則として損金算入できません。また、不相当に高額な部分も損金算入できません。(国税庁)

つまり、社長が自由に、

「今月は利益が出そうだから多めに取る」
「来月は資金繰りが厳しいから減らす」

ということはまず不可能です。上記の通り役員給与は原則損金不算入であるためです、基本的には毎月同額で支給する「定期同額給与」で支給しなければなりません。


役員報酬は期首から3か月以内に決める

役員報酬は、決算後、次の期の利益予測を立てたうえで、期首から3か月以内に決める

というのが基本です。

ここを適当に決めてしまうと、後から利益が出すぎたり、逆に資金繰りが苦しくなったりします。

基本的には決算申告を行う許可を受けるための、株主総会で役員報酬を決める流れとなります。


社会保険料の影響はかなり大きい

役員報酬を考えるときに、意外と見落とされがちなのが社会保険料です。

法人の場合、社長1人の会社であっても、原則として社会保険の加入対象になります。

そして社会保険料は、会社と個人の両方に負担が発生します。

たとえば協会けんぽの健康保険料率は都道府県支部ごとに異なります。令和8年度の保険料額表も都道府県別に公表されています。(協会けんぽ)

また、厚生年金保険料は標準報酬月額をもとに計算され、日本年金機構の保険料額表でも標準報酬月額ごとの保険料が示されています。(年金機構)

役員報酬を上げると、所得税・住民税だけでなく、この社会保険料も増えます。

そのため、実務上は、

「法人税が減るから報酬を上げた方が得」

と単純には言えません。

むしろ社会保険料まで含めると、上げすぎない方がトータルで有利なケースもあります。


では、どうやって“最適ライン”を探すのか

役員報酬の最適ラインを探すときは、私は次の順番で考えるのがよいと思っています。

1. まず生活費から最低ラインを決める

最初に見るべきは、社長個人の生活費です。

税金だけを考えて役員報酬を低くしすぎると、生活が苦しくなります。

また、生活費が足りないからといって、会社のお金を社長個人が自由に使ってしまうと、役員貸付金などの問題につながります。

まずは、最低でも毎月いくら必要なのかを決めます。

ここが役員報酬の下限です。


2. 次に会社に残したい利益を考える

次に、会社にどれくらい利益を残したいかを考えます。

会社に利益を残すことは、必ずしも悪いことではありません。

利益が残れば、法人税等はかかります。
しかし、会社の自己資本が厚くなり、融資審査や将来の投資にプラスになることもあります。

特に、今後借入をしたい会社、設備投資をしたい会社、資金繰りを安定させたい会社では、あえて会社に利益を残す判断もあります。

節税だけを考えて会社の利益をゼロに近づけるのは、必ずしも良い経営とはいえません。


3. 法人税・所得税・住民税・社会保険料を合算して比較する

最後に、複数の役員報酬パターンを作って比較します。

たとえば、

  • 月30万円
  • 月50万円
  • 月70万円
  • 月100万円

というように複数パターンを作り、それぞれについて、

  • 会社に残る利益
  • 法人税等
  • 社長個人の所得税・住民税
  • 社会保険料
  • 会社と個人を合わせた手残り

を比較します。

ここまでやって初めて、

「この会社の場合は、このあたりが現実的なラインですね」

という判断ができます。


まとめ:役員報酬は“なんとなく”で決めてはいけない

役員報酬は、会社経営において非常に重要な判断です。

なんとなく、

「月50万円くらいでいいかな」
「前の会社員時代と同じくらいで」
「利益が出そうだから多めに」

と決めてしまうと、税金・社会保険料・資金繰りの面で後悔することがあります。

役員報酬を決めるときは、

  • 法人税等
  • 所得税
  • 住民税
  • 社会保険料
  • 会社に残る資金
  • 社長個人の生活費
  • 将来の融資や投資計画

を総合的に見て判断する必要があります。

役員報酬は、単なる社長の給料ではありません。

会社の利益設計であり、社長個人の生活設計であり、税金と社会保険料を含めた資金計画です。

だからこそ、決算後や会社設立時には、複数パターンでシミュレーションしたうえで決めることをおすすめします。

設立1年目は利益が読みにくいこともあって、勤め人時代の給与とか、最低これくらいは欲しいという金額で算出するところは多いです。1年目はそれでもいいですが、2年目、3年目となんとなく前と同じということではなく、適切な金額を改めて考えることが重要ですね。


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澤村
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